俺は世界中でただ一人、松平さんの言うことなら何でも聞く

前回、女子マラソンでオリンピックメダリストの有森選手や高橋選手の師である小出義雄監督の「要するに、志の差ですよ」という言葉から、「志」について書きました。

その小出監督は、こんな言葉も残しています。

「監督がゴールにいてあげるべき時は選手が勝った時ではなく、負けた時に『おまえが悪いんじゃない、監督が悪いんだ』と慰めるためだ」

人間には「できた!」という瞬間がある

今回はマラソンからバレーボールに移って、元バレーボール全日本女子チーム監督の柳本晶一さんのお話。

女子バレー

柳本監督は練習中、一切椅子に座らないし、携帯電話も持たなかったそうです。それは、

「人間には『できた!』という瞬間がある」

から。その時に、「よし、できたやないか!」と監督が言ってやったら、その選手は自信を持って一歩前に進むことが出来るはずだと。

でもその時、監督が携帯で電話をしていたり、どっかよそ見をしていたら、その「できた!」という瞬間を見逃してしまうかもしれません。

半年後にそのタイミングがめぐってくる保証はないし、怪我をしてバレーを辞めてしまうかもしれないと思うと、柳本監督には決してそんなことはできなかったと。

一人ひとりの伸びるスピードや進む距離は違うものですが、たとえ少しでも選手が「できた!」と思った瞬間に、「よし!」と言って、「それはすごいことなんだよ」と自信を持たせてあげる。

それが指導者だと思いますと、柳本さんは言います。

小出監督も柳本監督も、志を持って選手たちを指導してきました。勿論、選手達にも志があった筈です。そして、監督の志と選手の志がリンクしたとき、そこに化学反応が生まれ、そして・・・・・

「俺たちは絶対に世界一になれる」という信頼

もう一人、今度は元バレーボール全日本男子チーム監督であった松平康隆さんのお話。

松平さんがコーチとして参加した東京五輪が3位に終わった後、金メダルを目指して新チームの監督に就任したときの話です。

監督というものは辞令を受けたらなれるわけではありません。確かに肩書は監督ですが、本当のチームの監督とは、選手たちが「監督の言うことには絶対服従だ」と思うこと。

それは怒られるからとか怖いからではなくて、

「監督の言うとおりにやれば俺たちは絶対に世界一になれる」

と心から信頼して従うということです。

そのためにはどうすればいいか。松平監督はチームのメンバー構成を考えた時、ある一人の選手を中心に据えました。南将之という選手です。

彼は東京五輪で打ちまくり、日本を銅メダルに導いた立役者であり、「日本の大砲・南将之」としてその名を世界中に轟かせた日本一のエースアタッカーでした。

彼には徹底的に守備練習と体力トレーニングを課して、他の選手より厳しく当たったのです。

守備練習っていうのは本当に地獄なんだそうです。辛いし、苦しいし、床に飛び込んだり、壁にぶつかったりで血だらけになる。1時間もやったらみんな音を上げてしまうそうです。

しかし、あの南が身体を投げ出し、血まみれになりながらも松平の猛特訓にくらいついている。それを見ている他の選手たちも「自分もやらねば」と一つになっていったのです。

ただ、厳しく当たるだけではついてきませんから、南選手とは個別に話す機会を多く持つよう心がけたそうです。

俺は世界中でただ一人、松平さんの言うことなら何でも聞く

誰だって自分に辛く当たるだけの人の言うことなんて聞きませんよね。厳しくても、自分の持っている能力を見つけ、認め、それを伸ばしてくれる人とはいい関係になりたいと思うはずです。

「俺たちは日本で最初に世界一になるチームだ。一銭にもならないかもしれないが、自分が生まれてきて “これを成し遂げたんだ” という名誉を手にすることができる。これは素晴らしいことじゃないか。だからがんばれ!」

実は松平さんは、小学校5年生だった一人息子を不慮の事故で亡くしています。ベッドに横たわる息子を見て、「いま元気でも明日はどうなっているか分からない。それなら自分の人生が満足だったと思えるものにしたい」と、バレーに賭ける決意をしていたんです。

南選手の存在があったからこそ、メキシコ五輪で銀、ミュンヘンで金を取ることができましたが、残念ながら南さんは2000年に59歳の若さでこの世を去りました。

晩年は松平監督の奥さんと二人で食事に行くほど親しくしていましたが、彼はある時、奥さんに向かってこう言ったそうです。

「メキシコ五輪の前は、毎日 “松平さん、明日死なねぇかな” と思っていた(笑)」
 
それは偽らざる心境だったのでしょう。

しかし彼の死後、南さんの奥さんがこんな話をされたそうです。

「うちの主人は私の言うことも聞かない人でしたが、 “俺は世界中でただ一人、松平さんの言うことなら何でも聞く” と言っていました」



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