切に生きる -- どうして努力する人、しない人がいるのでしょうか?

8年ほど前の雑誌なのですが、「切に生きる」という特集が組まれていました。

切に生きるとは、ひたすら生きるということ。いまこの一瞬一瞬をひたむきに生きるということ。

日本の仏教宗派・曹洞宗の開祖である道元禅師は、弟子から「どうして努力する人、しない人がいるのでしょうか」と問われ、

「努力する人間には志がある。しない人間には志がない。志のある人は、人間は必ず死ぬということを知っている。志のない人は、人間が必ず死ぬということを本当の意味で知らない。その差だ」

と答えたそうです。

志が切実でないのは、無常を思わないからだ、ということです。

人は刻々と死につつあります。こうして生きている時間を大切にして、自分を磨いていく。このような思いを持って語られる2人のセールスマンの話を紹介しましょう。

生きる

一人目の伊藤浩一さんは、富士通のシステムエンジニアとして10年間勤務した後、自分の力を試したいと、フルコミッションの保険営業という今までとはまったく違う世界に飛び込みます。

そして、営業系の本をむさぼり読み、朝6時から夜11時まで会社にいようと自分に課し、半年間それを続けますが、まったく売れない状態が続きます。

奥さんの反対を押し切って転職した手前、生活レベルを下げることはできなかったので、奥さんには内緒で前職時代との手取りの差額を埋めるために借金を重ねていきます。

その額、3年で約1500万円。最後は利息の支払いだけで月50万円近くになっていました。

悩んだ挙句、叱られるのを承知でこのことを父親に相談すると、一言も責めることなく、「おまえ、本当に大変だったな。一人でずっと悩んでいたんだな」と言って、黙って借金を肩代わりしてくれます。

「ああ、親と言うのはこのようにして子どもを守るんだ。このままでは終われないぞ。なんとしても親を幸せにしなくては」

この時を境にして伊藤さんの人生観は大きく変わります。会社の仲間も、次の日から伊藤さんの目つきや顔つきが変わったのが分かったと言ってたそうです。

この時以来、伊藤さんがやってきたことは一つだけ。相手がプラスで自分がマイナス。何かあった時には他人を優先し自分が損を取るという、それだけの発想です。

伊藤さんが心がけたのは、できるだけ保険の話をしないということ。「こいつは商品を売り込もうとしているな」とお客様が少しでも感じられたと思ったら、自分の方から引いてしまうそうです。

伊藤さんが考えているのは、「どうしたらお客様の役にたつのだろう」、という一つだけです。

伊藤さんは数字を追うのではなく、一日に何人から「ありがとう」と言っていただけるかを自分のノルマにしています。

その結果、一年半後には会社でトップになっていました。月収も一千万円を超えて、給与明細の欄に書ききれなかったそうです。

「いま心がこもった言葉って少ないでしょう。私はその数少ない言葉の一つが『ありがとう』だと思います。そして、自分のたぎるような気持ちを伝える日本語が『切に願う』という言葉なのではないでしょうか。これらの言葉を、どれだけ相手に伝わるように努められるかは営業に限らず人生において、とても大切なことだと思うんです」

志

二人目の神谷正光さんは、静岡県の富士山の麓、「地獄の訓練」で知られる管理者養成学校に営業マンとして38歳の時に入社します。

入社当初は好調な時期が続きますが、徐々に契約件数が減っていき、3年目にはほとんど契約が取れなくなってしまい、部門長からは「残念だが、このままだと解雇せざるを得ない」と通告されるまでになります。

そこに一つの転機が訪れます。ある朝、自宅のガレージから車が盗まれてしまうのです。

この時、不思議なことに神谷さんは、「こう考えよう。車を盗まれたことにありがとうと感謝して、この事実を受け止めよう。これは、神谷家の悪い因縁を一緒に持っていってくれたものに違いない」と思います。

神谷さんは、自分が親兄弟や親類、友人をはじめ、縁のあった人に感謝すらしたことのない人間だったということに気がついたのもこの頃でした。

そこで、営業の前後にはお客様の幸せを願い、心の中で「ありがとうございます」と感謝の気持ちを表すことにしたのです。

社内での仕事のやり方も、残り僅かの在職期間なら、せめて世話になった職場の仲間に恩返しをと、自分の営業の時間を削って、皆の手助けを一所懸命やる形に変えていきました。

ところが、自分を忘れて皆のために頑張っていると面白い現象が起き始めます。今まで疎遠だったお客様、断り続けられていたお客様から連絡が入り、次々と契約が成立していったのです。

著述作家で心学研究家の小林正観さんは、「目の前の頼まれごとを引き受け続けていると、神様からご褒美をいただける」という話をしていますが、この言葉を自分の体験として実感したのです。

「営業とは、お客様を自力で口説き落とすものだと思っていましたが、自分なりの営業を続ける中で、誠心誠意目の前の人を大切にし、感謝の気持ちで接していったら必要な時に必要なお客様に出会える、という揺るぎのない信念が確立されていきました。だから、私が考えているのは目の前のお客様や出来事を大切にすることだけです」

「切に生きる」とは、目の前の人をどれだけ大切にできるかということに繋がるのかもしれません。伊藤浩一さんの「切に願う」という言葉も、自分ではなく相手のことを「願う」ことなのでしょう。

「切に生きる」、心に留めておきたい言葉です。



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