小山薫堂 著 『考えないヒント』 -- それは誰かを幸せにするか?

東京都北区(西巣鴨)に「稲荷湯」という銭湯があります。現存する最古の銭湯って話もあるらしいですが、阿部寛さん主演で映画化された「テルマエ・ロマエ」のロケ地として有名かな。

考えないヒントこの銭湯の存在を知ったのは、小山薫堂さんの『考えないヒント』という本でした。

小山薫堂さんの本職は何なのか分かりませんが、放送作家、脚本家、あるいはラジオパーソナリティといった様々な顔を持っています。

テレビ系は、1985年に『11PM』の台本でデビューしたんですね。『料理の鉄人』も小山薫堂さんのお仕事でした。

脚本家で言えば、映画「おくりびと」で日本アカデミー賞脚本賞を受賞しています。

ラジパーソナリティとしてTOKYO FMやFMヨコハマで番組を持っていたり、大学教授でもあったり・・・・・

水分を含んでいない乾いた新品の桶は、高く澄んだカランカランという音をさせて

さて「稲荷湯」に戻りますが、小山さんがどうやって見つけたかというと、東京の銭湯で一番遅くまで営業している銭湯はどこかを調べたら、当時そこが一番遅かったからだそうです。

調べてみたら、今も深夜午前1時30分まで営業しているようです。

昭和5年建造の建物は、2014年末に若干の改装工事をしたようですが、外観は85年前のままのようです。今時、木造建築の銭湯なんて、なかなかお目にかかれませんからね。

稲荷湯

小山さんが初めて行ったときに驚いたのは、そこがとても清潔なことだった、と書かれています。

昔ながらの銭湯で、昔ながらの建物で、全然新しくないのに、脱衣所には髪の毛一本落ちていなかった。タイルの目地は磨き上げてあるし、澄んだ熱いお湯が湯船からあふれ出ている。

ある日、「どうしていつも、こんなにきれいにしているんですか?」と聞いてみたところ、「亡くなったおじいちゃんがいつも、『人様からお金をいただく以上は、感動させなきゃいけないんだ』って言っていたんです」とのこと。

この稲荷湯、水道水を一切使っていないそうです。井戸水をくみ上げ、そしてそれを重油ではなく、薪で沸かす。薪で沸かしたお湯は肌あたりがいいので、温度が熱くても入れるんだそうです。

富士山のペンキ絵は、年に1回、職人さんに来てもらって描き替える。桶もプラスチックではなく、木の桶を使っていて、その木の桶は、毎年12月31日の営業が終わると全部回収して、薪にする。

元旦はお休みし、1月2日に、まっさらな木の桶を置く。水分を含んでいない乾いた新品の桶を床に置くと、高く澄んだカランカランという音がする。その音を聞いて「ああ今年もお正月が来たな」って。

今の時代に、なんでこんな大変なことをやり続けているのかって。それは、稲荷湯に来るお客さんを感動させるため。お客さんに喜んでもらうためです。

稲荷湯の亡くなったおじいさんは、斎藤一人さんが言う「人に喜ばれるものを提供する」という商売の真髄をシンプルに実践していただけなのかもしれません。

いや、多分それ以上に、おじいさんは人を喜ばせるということに仕事の喜びを見出していたんでしょうね。そしてその意思を、受け継いでくれる人たちが、いまも稲荷湯にいるってことです。

自分の好きなものに囲まれて仕事をする

本書の中で、ジャズタクシーの安西敏幸さんが紹介されています。

メディアで取り上げられたことも何度かあるので、目にしている人も多いと思いますが、自分のタクシーに真空管のアンプを積んで、ジャズを流しながら走る個人タクシーのお話。

ジャズタクシー

世の中にはたくさんのタクシーの運転手さんがいて、感覚的な話ではあるけれど、多分その内の多くの運転手さんは、いやいやながら仕事をしているような気がしますよね。

でも安西さんは、ほんとうに楽しそうに仕事をしていたそうです。

安西さんは、自分が仕事を楽しむために真空管アンプを積んだら、自分の好きなものに囲まれて仕事をすることが可能になった。先ずは、そこがスタート。

そしてそれを聴いたお客さんが、「うわっ、これいい音しますね」って喜んでくれる。そう言われた瞬間、自分の好きなものが誉められたうれしさや喜び、そしてそれによってお客さんを喜ばせることができたという二重の喜びがそこにはあったのでしょう。

稲荷湯のおじいさんと同じく、ここにも「人を喜ばせる」ということに仕事の喜びを見出した人がいたんですね。

それは誰かを幸せにするか

残念ながら2013年、安西さんは40年続けてきたタクシー人生に、そして2000年から始めたジャズクルージング(夜の東京観光)の歴史に幕を降ろしました。

この間、約2000組のお客様とジャズクルーズをしてきたそうです。誕生日や結婚記念日といった特別な日を、東京の夜景とシチュエーションに合わせた音楽で演出するのが安西さんの役目。

安西さんにプロポーズの演出を頼むカップルも多かった。演出に感動して涙涙のお客さんも。そんな様々な人生の節目に立ち会って、お客様の喜ぶ顔を見ることが出来、本当に幸せだったと。

だからこそ、予約の7割は口コミだったとか。同業者からのネタミや誹謗中傷も数多くあったけど、そんなこと気にもせず感動とサプライズを追求してきたと、自身のブログにも書かれています。

本書の副題には「アイデアはこうして生まれる」とありますが、小山さんが新しいアイデアを考え、そして新しいことをやろうと決めたとき、3つのことを考えるそうです。
  1. それは誰かがやっていないか
  2. それは誰を幸せにするか
  3. それが自分にとって面白いか
中でも特に大切にしているのが、「それは誰を幸せにするか」ということだそうです。

稲荷湯のおじいさんも、ジャズタクシーの安西さんも、やっぱり「誰かを幸せにする」ってことが仕事の中で一番大切な位置を占めていたんじゃないでしょうか。


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