チップ・ハース+ダン・ハース 著「アイデアのちから」

こんな話を聞いたことがありますか?

出張先の地元のバーで一杯飲んでいると、魅力的な女性が近づいてきて飲み物を一杯ごちそうしてくれます。悪い気はしません。

その飲み物に口をつけた後の記憶がなく、目覚めるとホテルのバスタブの中で氷水に浸かっていました。

慌ててあたりを見回すと、一枚のメモと共に携帯電話が目に入ります。メモには、「動くな。救急車を呼べ」とあります。

かじかんだ指で911をダイアルすると、交換手はこんなことを言いました。

「ゆっくりと気をつけながら背中に手を回してみて下さい。腰の辺りからチューブが出ていませんか」

手探りしてみると、確かにチューブが出ています。

「あなたは腎臓を一つ取られたのです。町で暗躍する臓器狩り組織の被害にあったのです」

チップ・ハース+ダン・ハース 著「アイデアのちから」という本を紹介しましょう。

優れたアイデアを生み出すのに必要なのは、発想力ではなくフレームワーク

アイデアの力日本語訳の発売が2008年なので5年くらい前の本になりますが、いまだに Amazon の「ビジネス・経済」カテゴリで結構上位に入っています。

「アイデア」というと「発想」という言葉とセットに思い出すことが多いような気がしますが、本書はいかに “発想” するかではなく、どう “構築” するかを説いた本です。

本書の解説をしている勝間和代さんの言葉を借りれば、「優れたアイデアとは、発想力があるアイデアマンが天才的な思い付きから生み出すものではなく、一定のフレームワークに従ってもとのアイデアを練り込んでいけば、高い確率で優秀なアイデアが生まれる」となります。

その「一定のフレームワーク」とは、次の6つの要素からなります。
  • 単純明快で (Simple)
  • 意外性があり (Unexpected)
  • 具体的で (Concrete)
  • 信頼性があり (Credentialed)
  • 感情に訴える (Emotional)
  • 物語 (Story)
著者たちは、この6つの要素の頭文字を取って「SUCCESs」と表現しています。

そして冒頭の「臓器狩り」の話が、この「SUCCESs」に則って構築されている話ということなんですが、そこにどんな “効能” があるのでしょうか。

もしあなたが、1時間後に友人に電話をかけ、この「臓器狩り」の話をしようとしたら、それほど苦労することなく話を再現して友人に伝えることができると思いませんか。

たとえば、こんな文言と比較してみるとどうですか。

「包括的なコミュニティ構築は、必然的に既存の慣行を活かしてモデル化できる投資収益率の原理に役立つ」

これだと、1時間後と言わず今すぐ友人を電話口に呼び出し、この一節を再現してみようとすれば、どういう結果になりそうかは想像に難くないでしょう。

この違いこそが、「SUCCESs」の効能だってことです。

あなたのアイデアや言葉は、相手の記憶に焼き付いていますかってこと。即ち「SUCCESs」とは、「記憶に焼きつくアイデアの6原則」という言葉で説明できるかもしれません。

そう、アイデアにおける重要ポイントは、「記憶に焼きつく」ってことなんです。

原則のいくつかを、もう少し細かく見てみましょう。

単純明快である

「単純明快である」とは単純明快ですよね。アイデアから余分なものをはぎとって、一番大切な本質をむき出しにすればいいんです。

「星の王子様」の作者であり、飛行機乗りでもあったサンテグジュペリは、設計の的確さをこんな風に定義しています。

「設計士が完璧さを達成したと確信するのは、それ以上付け加えるものがなくなったときではなく、それ以上取り去るものがなくなったときだ」

重要なのは、そのアイデアの “核” となる部分は何なのかを見極めることです。後は、この「6原則」を使って、その “核” となる部分を言葉にするだけでいいんです。

具体的である

冒頭の “物語” で言えば、「氷水」や「腰から出ているチューブ」、そして「臓器狩り」といった言葉が「具体的である」ということです。忘れようとしても忘れられないでしょ。

ソニーのウォークマンが誕生する際の逸話を思い出します。

当時、名誉会長だった井深氏のアイデアは、単純明快で具体的でした。

「小型のテープレコーダーに、再生だけでいいからステレオ回路を入れてくれないかな」
  • 小型であること
  • 録音機能は必要ない
  • ステレオで再生できる
現代の iPod に代表される「音楽プレイヤー」の先駆けであるウォークマンの誕生です。

信頼性がある

この「信頼性がある」というのは色んな説明の仕方があると思いますが、本書では1980年米大統領選の討論の中で、レーガンが経済の停滞ぶりを示すのに、統計の数字を持ち出すのではなく、代わりにこんな発言をしたと述べられています。

「投票する前に、あなたの暮らしぶりが4年前より良くなったかどうか自問してください」

これは、その根拠が正しいかどうかは別にして、「人は、自分自身の考えに一番の信頼性を置く」ということを説明したものです。

感情に訴える

「感情に訴える」とは、例えば人は貧困地域全体よりも、恵まれない一人に寄付をしたがるということです。フォスターペアレントは、地域への寄付ではなく、恵まれない具体的な誰かの里親になって援助してくれと頼みます。

なぜなら、「具体的な誰か」の惨状の方が、もちろん感情に訴えるからです。

あるいは、ある会社が業績目標を達成した従業員に$1000 の特別手当を与えることにし、その告知案を3種類考えました。
  1. $1000 あれば、ずっと夢見ていた新車や住宅リフォームの頭金が手に入るんですよ。
  2. 銀行口座にこの$1000 がありば、どれだけ安心感が増すか考えて見て下さい。
  3. $1000 の持つ意味を考えてください。あなたが会社の業績に重要な役割を果たしていることを、会社が認めてくれているということです。
「感情に訴える」のは、やっぱり「新車や住宅リフォームの頭金」だってことです。

物語性がある

締めくくりとして、1961年に当時の大統領ジョン・F・ケネディの言葉が紹介されています。

「60年代までに人類を月に立たせ、安全に帰還させよう」

単純明快で、意外性があり、具体的で、信頼性もあり、感情を掻き立てる、物語性があると思いませんか。

どこかの企業のCEOの、「われわれの使命は、チーム中心の最大規模のイノベーションと、戦略的目標に沿った航空宇宙計画を通じて、宇宙産業の国際的リーダーとなることだ」みたいな言葉と比べてみれば、その違いやインパクトは歴然ですよね。

もしあなたが、そのアイデアを他の人に広く伝えたい(そのアイデアが実現されるためには必要不可欠だと思いますが)のであるいならば、勝負は伝えられた人の頭の中に焼きつくのか、忘れ去られてしまうのかってことにあるんです。

そのためには、「SUCCESs」です。


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