浅倉卓弥 著 「四日間の奇蹟」 -- 天は自ら助くる者を助く

浅倉卓弥 著 「四日間の奇蹟」を紹介したいと思います。

この本、「このミステリーがすごい!」の第1回大賞作品なんです。初版は2013年1月となっているので、既に10年以上前の本なんですが、私が読んだのはつい最近。

四日間の奇蹟購入したのは何年前のことなのか記憶にもありませんが、少なくとも7~8年は経っていると思います。

それもブックオフで105円で。

買ったまま、つい最近まで本棚でホコリを被っていたわけですが、先日、出だしだけでも読んでみようかと手に取ってみたら、あっさりと話しに引き込まれてしまいました。

最初に惹かれたのは、この小説が持つ静謐な雰囲気。

主人公の二人がピアノ奏者という事もあり、ピアノの名曲が至る所に出てきて、クラシック系の知識がほとんど無い私にも、不思議と音楽が聞こえてきそうな本です。

主人公の一人、如月敬輔は将来を嘱望されたピアニスト(だった)。高校卒業前にオーストリアに留学するが、そこで左手薬指の第一関節から先を失う。

現地で日本人の親子連れを襲った強奪犯は、両親を射殺し、更に敬輔に向かって逃げて来る子供に銃口を向け発砲。その弾は、子供の命を奪う代わりに、敬輔の左手薬指を奪った。

この子供が、もう一人の主人公である千織。8歳の知的障害がある女の子。

ところがこの千織、ある種の知的障害が、時として特定の分野に信じられない才能を発揮することがあるというサヴァン症候群であり、彼女の場合は一度聴けばその楽曲のすべての音をあまさず記憶することができるという特殊な能力の持ち主。

そして、オーストリアでの事件から7年後、彼女の(ピアノや社会との接し方の)訓練も兼ねて慰問で訪れた、脳科学研究所での四日間の間におきた “奇蹟” の物語。

真っ赤な夕空を背景に影絵の行列は、まるで求道者の集いの様に

個人的に一番印象に残ったシーンは、二人が脳科学研究所に到着したところ。実際には、山の上の “診療所” が目的地だったのですが、それを山の下から見上げるシーンがあります。

夕焼けを背景に、山の稜線の両側に建物のシルエットが2つ。その一つの建物から出た人影の列が、もう一つの建物に向け、ひっそりと進んでいきます。

真っ赤な夕空を背景にして、黒い稜線の上に突き出た影絵の行列は、まるで求道者の集いの様にしずしずと動いていくんです。

表紙の絵は、このシーンが描かれたものだとは、いま気が付きました。

ある種荘厳なこの風景が、小説全体のイメージを決定付けているような気がします。全編を流れるピアノの旋律と、このシーンとが相まって、この小説の静謐感を醸し出しているのでしょう。

ドヴォルザークの交響曲第九番とか、ベートーヴェンのピアノソナタとか言われても、浅学な私にはどんな雰囲気の曲なのかさえも分かりませんが、それでも演奏されている場面を思い浮かべる事が出来るのは、著者の力量なんでしょう。

そう言えば、「のだめカンタービレ」でも、まったく同じような感想を持ちましたね。「のだめカンタービレ」を読んでピアノを弾きたいと思った人がたくさんいたそうですが、私はこの本でも同じように感じました。

「天は自ら助くる者を助く」とは、

既に4~5回、読み返しています。何がそんなにも私をこの本に向かわせるのか、いま一つわからないのですが、なぜか読んでいて心が落ち着くんです。

これが新人の作品とは、本当に驚きです。

「天は自ら助くる者を助く」という言葉が使われるシーンが3カ所あるのですが、主要登場人物の3人目に当たる真理子という女性の言葉はスッと私の中に入ってきました。

「もちろん天に神様がいて、というふうじゃなくて、だから主語は天ではなくて、周囲でも環境でもいいんだと思うんですけどね、つまり、自分でなんとかしようとしない限り、人は決して救われない、そういうことを言ってるんだと思うんです。
(中略)少しでもよくなりたい、そういう思いが本人になければ、結局まわりは大したことはしてあげられないんですよね」

この言葉の意味するところは自分なりに分かっている積りでしたが、あらためてこういう言葉にされてみると、「なるほどなー、その通りだな!」って気が付きました。

なんて言えばいいのかなー? 最初のアクションは自分が起こす必要があるってことかな。とにかく、なにがなんでも “自分” なんです。

なぜなら、それは “あなたの” 人生だからです。自分で自分の人生を良くしようと思わない限り、周りの人はどんなに手助けをしようとしても無駄だってこと。

結局は、自分の “気持ち” なんです。スケートの高橋大輔が、「他の選手よりも僕が1番五輪への気持ちが弱かった」って気付いて、「何も考えずにがむしゃらに練習して」道を切り開くしかないように。

難を言えば(難ではないけれど)、ミステリーかって言われれば、「うーん?」って首を傾げますが。

もう一つ、題名に入っている「奇蹟」という言葉ですが、個人的には主題に合わないのではないかって。「奇蹟」という言葉から受ける印象と、小説の展開に乖離を感じるのは私だけではないように思いますが。ま、単に私の想定と違ってたってだけなんですけどね。

それはさておき、この本、おススメです。著者浅倉卓弥さんの別の本(「君の名残を」とか)も是非とも読んでみたくなりました。



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