山口 瞳著 「新入社員諸君!」

山口 瞳著「新入社員諸君!」のご紹介。

以前、山口瞳さんの「少年達よ未来は」という本を紹介しましたが、ちょっとしたきっかけがあり、再び山口瞳ワールドに入って行ってみましょう。

年二回のサントリーの新聞広告、楽しみにしていた人も多いのでは

あと一月くらいで4月1日がやってきますが、毎年、成人の日(1月15日)と入社式の日(4月1日)になると、サントリーが新聞広告に新成人と新社会人のためのエールのエッセイを載せていた時期がありました。(ネットで調べたところ、どうやら2006年度を最後に終了してしまったようです)

そのエッセーを1970年代中ごろの開始時期から約20年間に渡って書いていたのが、元サントリー(当時の壽屋)社員であり、直木賞作家でもある山口瞳さんです。(山口さん逝去の後は、倉本聡さんに引き継がれ、最後は伊集院静さんが書かれていたようです)

そして、新入社員向けに書かれていたのが、「新入社員 諸君」という題名の広告だったのですが、今回紹介する本は、もっとずっと昔、まだ山口さんが壽屋の社員でありながら、「江分利満氏の優雅な生活」で直木賞を受賞した1963年ころに書かれたものです。

開高健さんも柳原良平さんもいました

新入社員諸君!私の手元にあるのは、1973年発行の角川文庫版(140円)ですが、その後書きに、「約10年前に書いた文章であるが、月給その他の数字以外は手を加えていない。私の考えは現在でも少しも変っていないから」といった意味のことが書かれています。

そして、最初に著されてから半世紀の年月が経過しようとしていますが、時代の流れと共に微妙な古さを感じながらも、今でもやはり普遍的な真実があるように思います。

山口瞳さんはサントリーの宣伝課に配属され、「洋酒天国」という小冊子の編集に携わりました。トリスバー(知ってる人は少なくなったでしょうね)の常連客へのサービスとして創刊されたものでしたが、最盛期には20万部を発行していたそうです。

その創刊者には、後の芥川賞作家開高健さんや、柳原良平さん(トリスウィスキーのCMキャラクターであるアンクルトリスを描いたイラストレーターで、本書の表紙も柳原さんによるものです)といった才能が集まっていたんですね。

まだ、コピーライターなんて言葉がなかった当時、ハワイ旅行が当たる懸賞のコピー「トリスを飲んでHawaiiへ行こう!」という超有名(知らないかな?)なコピーを書いたのが山口瞳さんです。

ミミッチイ考えを起しなさんな

「諸君、一所懸命はたらきなさい。誠心誠意ではたらき有能な社員になってください。有能な社員とは、役に立つ社員のことです。役に立つ社員とは、何か自分のものを持っている社員のことです。誠心誠意はたらきなさい。ミミッチイ考えを起しなさんな。給料分だけはたらけばいいだろう、なんて薄ぎたない根性をお持ちになったらオシマイだよ」

こんな感じで本書は始まっていきます。今でも全然古くない考え方ですよね。

山本周五郎さんの著作の中に、「50年前、50年後」という表現が出てきます。

これ、50年前には私はこの世にいなかったし、50年後もまた私はこの世にいないでしょう、ということです。だからどんな悩みがあっても、どうってことないんだよ、というような意味だったと思います。

山口瞳さんがこのエッセイを書いたのは38歳の時。山口瞳さん自身も、50年前にはこの世におらず、そして50年後の今、残念ながらやはりこの世にいません。

引用の意味合いが違いますが、普遍的なものというのは文字通り50年前も50年後も変わらずにあり続けるのです。

「正しい文字を書き 正しい言葉をつかえ」は今も私の財産となって

時代が変わっても、変わらぬ人生の知恵があるわけですが、その先人の知恵として、「新入社員への戒め12項目」というふうにまとめられています。その最初の項目は「社会を甘くみるな 勉強を怠るな」です。

学校と社会とは別ものである。学校は勉強するところであり、社会は仕事をして給料をもらうところである。社会に出たら勉強しなくていい。社会というのは不潔なところである。学校には青春があり、理想があり、学問があった。会社勤めは世を忍ぶ仮の姿である。

こんな気持ちで入社してきたらヒドイ目にあうよ、って。当然ですよね。

でも、「会社勤めは世を忍ぶ仮の姿である」というところは、自分自身も社会に出てから何年間かは心の中に隠し持っていたように記憶しています。

大学を卒業する時、研究室の先生に言われたことが今も印象に残っています。

「会社に入ったら、少なくとも3年間は勉強を続けなさい。その3年間の勉強が、その後の会社人生を決めてしまうよ」

といった内容のことだったと思います。

そして、その言葉は30年以上が経った今、正しかったと断言できます(今度、先生に報告をしよう)。

「戒め12項目」の中の一つ、「正しい文字を書き 正しい言葉をつかえ」。

入社したら、まず自分の金で、専用の小型国語辞典を買っていただきたい。

会社から私物を持ち帰るために引き出しを整理していたら、新入社員の時に買った国語辞典が出てきました。

今でこそパソコンで文字を入力するようになり、活躍の場面はほとんど無くなってしまいましたが、買ってから長い年月の間、「正しい文字を書き、正しい言葉を使う」ための大きな助けになってくれた辞書です。

山口瞳さんの、この言葉に従って買った国語辞典なんです。そして、今回「新入社員諸君!」という本を思い出したきっかけでもあります。



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